ゴア〜コーチン移動(1)

昨晩、ゴア・カラングートを出発した民間の旅行代理店運営のバスは、
フルリクライニングのシートで
完全に身体を伸ばして横になれるのはいいのだけども、
なにしろ道が悪く、一見舗装されてるように見えるのに
とんでもないガタガタ道が延々と続き、まともに眠れなかった。


ゴアからコーチンといえば、
地図で見る限りインドの西岸をずっと南下するだけなので、
つまり山道を登ったり下ったりする地形ではないと勝手に思い込んでいたから、
結構そのガタガタは想定外だった。
列車ならばガタガタ道はないから、こういう地形を移動するときは
やっぱり列車に限るな。


などと後悔&反省しつつ、徐々に夜が明けてきた。
6時頃、外を見ると、標識や看板に「HOSPET(ホスペット)」という
馴染みある地名が見られた。バスの切符切りも、道で乗客を拾うために
「HOSPET!HOSPET!」と連呼している。
ホスペットとは、ハンピという
世界遺産に指定されている都市遺跡の点在する古都に行くための入り口の町で、
私は前回11月の旅行のときに来たことがある。
そうか、このバスはホスペットあるいはハンピ経由で
目的地のマンガロールに行くのだな、と最初は思った。
次第にバスはホスペットからハンピ村方面に走行、
500〜700年前に造られ、現在は廃墟と化した壮大巨大な石造りの神殿が
ぼんぼんとその辺に建っている地帯を抜け、
あっという間に数ヶ月前に私が降り立った
ハンピ村のパーキングエリアに到着。


マンガロール直通バスだと思ってチケット買ったのに
なんか騙されたような気分だなと思い、
早く出発しないかと思っていたけど
エンジンなんか止めちゃってなかなか発車しそうにない気配。
…頭の片隅にずっと渦巻いていた小さな不安の塊が
徐々に意識の中で存在感を増してきた。
ぼんやり見慣れた窓の外を見ていたけど、
やがて思い立って乗降口の切符売りに
「このバス、何時になったらマンガロールに出発するの?」と尋ねた。
切符売り「ここが終点だよ」
私「マンガロールには行かないの?!」
切符売り「この後、ゴアに戻るんだよ」
カラングートを出て13時間後、朝8時だった。


しまった、バスを乗り間違えた。
昨夜カラングートの代理店前に停車したバス、
あれはじつは単なるピックアップに過ぎず、
次のパンジムで各自、目的地のバスに乗り換えなければならなかったらしい。
たまたまカラングート発のピックアップバスがハンピ行きだったのだった。
車内でチケットのチェックなどがあってたら、
途中で気づくとかまだ可能性はあるのだけども、
そういえばインドの長距離バスは、大体予約チケットなんてノーチェック。
早朝、たしかに「あれーホスペットにまた来ちゃった、ホスペットって
ゴアより南だったっけかな。」とちょっと不審に思ったけど、
確認するのが恐かった。
しかし、今一度地図で確認すると、ゴアの真東だった。
嗚呼、ゴアから南下したかった距離を真東に向かって走ってしまったー。
海岸の街ゴアからデカン高原に位置するハンピまで結構高度差があるはずだから、
それならばあのガタガタ道もなるほど理解できる、今さらだけど。


どうしてくれよう、という気持ちで乾いた土地に突っ立っていると、
「これからゴアに戻るけど?」と先の切符売り。
一瞬、あの“永遠に終わらぬ夏休み”を味わうことが可能なゴアに
また舞い戻りたい気分が押し寄せた、けど戻ったらこの後の予定が
なし崩しになるので却下。
いろいろ選択肢はあったけど、
パーキングエリアで待機していた赤色が目印の公営のバスに乗り込み、
とりあえずハンピ村の入り口、ホスペットの長距離バスターミナルまで戻った。


そこからまた選択肢が分かれる、
つまり、この後、バスor列車。
バスターミナルの窓口で、ケーララ(州)に行きたいんですけどと尋ねると、
ケーララに直行のバスはないから、まずバンガロールに行くようアドバイスされた。
バンガロールも11月に行った都市、あーまた行くのかー。
バスなら1時間に1本程度出ているという。
列車には列車のメリットがあるけど、何しろ本数が少ないから
鉄道駅に行っても希望の列車が1時間以内に来る可能性は低い。
なので、バスを選択することに。
もう数分後に出る9時発のバスに乗り込み、
途中パーキングエリアみたいなとこで休憩を挟んだり、
風力発電の白くて巨大な風車など見たりしつつ、
約8時間後、高原都市バンガロールに到着。


インドでたしかナンバー3くらいの巨大都市バンガロール
高原都市とも呼ばれていて気候がいかにも良さそうだけども、
降り立ったバンガロールはやはりこの時期の他の都市と同様、
暑かった。
バスの職員に、ケーララに行きたいんですけど、と尋ねると
バスじゃケーララには行かないよ、列車で行くんだね、と教えられたので、
大型バスターミナルから都市の産物、地下通路を通って
バンガロールティー駅へ。


ティー駅でケーララ州コーチンにあるエルナクラム・タウン駅行きの
一般乗車券を購入。
大きな駅なので、目的地方面行きの列車の到着ホームがわからず、
&喉が渇いてキオスクをはしごなどしてうろうろし、
ようやく駅員を捕まえてホームを問い合わせたら、
その列車は今しがた出たと言われた。
次は何時何分の列車かと聞くと、21時45分。4時間以上空きがある。


クロークルームで重いバックパックを預け、
インドの『セブンティーン』(ティーンズ向けのファッション雑誌)を
買って読んだり、キオスクでいろんなジュース飲んだり、
駅周りに出てインド菓子屋で車内のお菓子買ったり。
また駅構内に戻って、「上級クラス客用待合室」と書かれた
なんか特別っぽい待合室に侵入。
他の待合室と違って豪華げなソファが置かれ、
そしてエアコンがきちんと効いたこぎれいな室内に、
いかにもファーストクラスなファミリーがどっかりと腰掛けて
列車が来るのを待っていた。
素知らぬ顔して「ここに座ってもよろしいでしょうか?」とか聞いて
ソファの一箇所に腰を下ろすと間髪入れず、どこにいたのか駅員がやって来て、
私に記入用紙が挟まったバインダーを差し出して、
列車番号、列車名、列車のクラス名、そして署名をしてください、と言う。
私は上級クラスどころではなく、列車の座先予約すらしていない。
いぶかしげな顔した駅員に促され、渋々一般乗車券を提示すると、
チケットの大きさが明らかに異なるから
それが予約チケットでないことは一目瞭然なんだけど、
その駅員、チケットを無駄に丹念に確認している。
何やら気まずい空気。
そんなに見なくってもいいんでない?と思っていると、
おもむろに、インド人にしては丁重に、
セカンドクラスの待合室が向こうにあるのでそちらに行ってください、
と追い出された。はは。


そうこうしているうちに列車の時刻になり、預けたバックパックを受け取り、
ホームに入ってきた列車のスリーパークラスの車両に乗り込んだ。
車両ごとに出入り口に張り出される全座席予約状況一覧によれば、
いくつか空いているシートがあるようだ。
その座席に辿り着き、後は車掌が来たら寝台料金を追加で支払えばいいと思い、
待機していると、隣の席の男が「あなたは何番?」と聞くので
私「19番。」
男「そこは車掌用席(つまり予約を入れないで置いておく席)だよ。」
私「じつは今手元にあるのが一般乗車券だから、
  後で寝台料金払えばなんとかなるでしょう。」
男「ペナルティーが科せられるだろうよ。」
うわーいやなやつ。インド人にしてはめずらしく批判的&他人に厳しい。
列車が発車してしばらくして車掌が改札に回ってきた。
寝台券に変更希望すると、快く請合ってくれた。ほらねー。


そういえば、鉄道駅に着いてからしばらくぷかぷか過ごしていたがために
17時15分発の列車をみすみす逃してしまい、4時間も時間を潰したのだけども、
列車の時刻表を見ると、その列車は目的地に明け方の4時に着くのだった。
だったらここで4時間潰しておいて正解だったかな。
というわけで。
バンガロール発のカニャークマリ・エクスプレスは
明朝9時45分にコーチンに到着予定。
久々に長い一日だった。
思えば昨晩から21時間もバスに揺られていたので、
疲れもなかなかのもので、寝台に上がってしばらくしてすぐに寝に入った。