アルナチャラ詣で(3)

歩き疲れたので、多数動員されている警察に頼ることに。
運が良ければ、警察のバイクに乗せてもらって、寺院の周りの
チャイ屋を片っ端から確認できるかも、などと淡い期待抱き、
警察に話し掛けたら、何人目かの警察はヒンディーが喋れ、
やっと自由に意思の疎通が出来た。
それまでの何人かは、英語もヒンディーも話せず、
女性の警官に至っては私の言葉をさらりと無視する始末。


そのヒンディーができる警察に相談したけど、
店の名前もどのゴープラムかも覚えていない私に
彼はお手上げといった様子で、彼も担当の区域があるらしく、
どこまでも私に付いてチャイ屋を探すわけにもいかないので
近くに交番があるからそこに行くように言われた。


言われた場所に行くと、道から少し奥へ入った変な場所に
何やら警察署らしきがあった。迷子の子が泣いている。
その場を1人で切り盛りしている警官は別の人の対応をしていたので、
ぼんやり突っ立って待っていると、
隣のデスクに座っていた4、50がらみのおっさんが話し掛けてきた。
彼はカーブのかかった暗いグリーンの変なサングラスをかけ、
頭にムスリムのような、頭のカーブにぴったりフィットする
つば無しの白い帽子、そしておでこにヘアバンドいう、
いくら多様な人がいるインドでも、明らかに異様な格好をしていた。
どうしたんだ?と聞くので、こういう事情でバックパックを置いた
店を探しているが見つからない、と言うと、
「よかったら、私がバイクを運転するから一緒に探しに行こう、
なに、心配することはない、きっと荷物は見つかる。」
と言うので、その提案に乗ることに。
彼は思い切り私服だけど、警察なのか、何なのか、
制服着た警官に、「ちょっと行ってくるから。」みたいな感じで
早速出掛けることになった。


前の部分に風車が挿してある少し風変わりな彼のバイクは、
ペダルをキックしてエンジンをかける、インドではめずらしくない
タイプのものだったけど、相当ポンコツで、1キックではかからず、
エンジンがかかるまで自転車みたいに両ペダルをこぐか、
あるいは乗った状態で後ろから誰かにスピードをつけて
押してもらっているうちにエンジンをかける、という方法に頼っていた。
なのでパワーがなく、軽く上り坂にでもなると
私が降りて後ろから押さなければならないのだけども、
ともかくそのバイクで地元に詳しいおっさんに走ってもらっているうちに、
ついにこれかなという店を絞り当てた。
というか、その店、さっき自分で歩いてて見つけたんだけども、
すでに閉まってて、隣の店の旦那に聞くと、
そいつぁチャイ屋じゃないね、みたいなことを言っていた。
別の人に聞くと、今日はその店は営業していなかった、みたいな
ことを言う人もいた。
しかし、今もってこうして網目状のシャッターの下りた向こう側を覗くと、
どうも、やはりこの店っぽい。
警察のおっさんに、「この店っぽいです。」と言うと、
そうか、ここなら知ってる店だから大丈夫、安心だ、と言い、
この店は明け方3時に開店する、それまでどうする?と聞くので、
私はさっきぐるぐる歩き回っている間に、安宿で空きがあるか
確認したけど、案の定満室だと言われ、そして
多くのヒンドゥー教徒たちは徹夜してアルナチャラ詣でをするか、
寺院周りで野宿するのが一般的なようだったので
彼らに倣ってそうするつもりであった。
でも、チャイ屋が見つかった今、ここから離れるとまたこの場所を
見失いかねないので、ここにいるつもりだとおっさんに言うと、
じゃあ、それまでこのバイクでアルナチャラ詣でに行かないか、
3時になったらここに戻ればいい、と言うのであった。
どうせ御参りするのなら、ヒンドゥー教徒と一緒に歩いて
周りたいけど、そうするとここの場所にまた戻れなくなる可能性がある、
けど、荷物を受け取って明日になって、日中14km歩くのは
とてもじゃないけど陽射しが強くて歩ききれないだろう、etc...
と考えられるパターンを咄嗟に考えて、
おっさんの提案を受けることにした。