アルナチャラ詣で(2)

時計はとうとう20時になった。
バックパックを預けたチャイ屋を出て1時間経ったので
ここで引き返せば21時頃戻れるだろう。
21時にはもしかしたら店が閉まるかもしれないので
とりあえず今来た道を戻ることにした。


道はそれほど狭くないにもかかわらず、人ごみは道幅いっぱいだった。
そして少数ながら、私同様逆流する人がいたり、バイクで通ろうとする人が
いるので、混乱は大変なものだった。
東京の花火大会の最も込み合った部分が、何kmも続いているような感じだ。
ふと脇を見ると、さっき通り過ぎた、聖人ラマナ・マハルシの修道場があった。
ここは世界的に有名なので、きっと英語を話す人がいるに違いないと思い、
アーチ型の門をくぐると、中庭に参拝客やら観光客らしきがいて、
その先に、ラマナ・マハルシ関連の書籍を売っている場所があった。
見ると、東洋人っぽい顔立ちの女性がスタッフとして働いていた。
目が合ったので、“Do you speak...”とまで言って一瞬ためらって
“Japanese?”と尋ねると、彼女はにっこり笑って肯かれた。
それで、今日が、ヒンドゥーの人々がアルナチャラ山の周りを
時計回りにぐるりと一周14kmを歩いて御参りする日で、
特にどこか目的地に向かっているわけではないということを教えてもらった。
なるほど、だから延々歩いていたわけだ。


納得し、彼女にお礼を言い、バックパックを預けた店に向かって
再び歩き出した。
逆行するので、山に対して左肩を向けることになり、
少し気持ちが悪いけども仕方ない。
私同様に逆流している人も少数派ながらいるので、やや心強い。
今度は目的地が明確なので歩きやすい。どんどん歩いて、やがて
あの巨大ゴープラムの塔の明かりが見え出した。
ところが。
その巨大ゴープラム、1つではなかった。
どうやら、マドゥラスで見たのと同様、本尊を囲って四角をした塀の
それぞれ1つの辺に1つ、ゴープラムが出入り口として建っているらしい。
えーっと、私がチャイ屋から見たゴープラムはどれだっけ?
行きは、大きな流れに乗っていたので迷うことは何もなかったけど
いざ逆流してみると、案外分かれ道がいくつもあって、
一番人通りの多い道を逆流すればいいと思っていたけど、
こうやって見ると、人通りの多さはどれも大差がないのであった。


…迷った。
とりあえず、ゴープラムが真正面に見えるチャイ屋を探せばいいのだ。
早くチャイ屋に戻らなければ、店が閉まるか、あるいは店を開けたまま
困って、私を待ってくれているかもしれない。
四角の塀は、1辺が200〜300メートルは優にあるようで、
そこを私はゆるりゆるりと歩く参拝客にしびれを切らせながら
妙に早歩きでぐんぐん歩き、そしてゴープラムの近くに出るたびに
チャイ屋を探し、またチャイ屋を見かけるたびに、その店の角度から
ゴープラムを見てみた。チャイ屋は数が多いわりに、さっきの
店が見当たらない。不思議だ。もう閉まったのかもしれない。
焦って探している間にもうとっくに22時を回っていた。