ミーナークシ寺院(マドゥライ)

クレジット会社のCMで、リチャード・ギアがインドに旅行に行き、
そこで、鳥を買って自由にしてやると幸福が訪れる、という
おまじないをしたい少女が、お金が足りなくて、鳥を買えなかった、
そんなやり取りの一部始終を見たリチャード・ギアが、
よし、とばかりに何10羽の鳥を(カードで!)買って、
願いを込めたたくさんの鳥が、インドの空を羽ばたいていく、
驚き喜ぶ兄と妹…みたいな感じのを、1、2年前に見た。
その背景に写っていたのが、インドのどこかの巨大な門塔だった。
以来、私はその美しい門塔をこの目で見たくてたまらず、
そしてガイドブックで、門塔はインドのドラヴィダ建築様式で
ゴープラムと呼ばれ、南インドの文化らしい、そして
その最も有名なのが、マドゥライにあるらしいことを知り、
いつかきっと行こうと思っていた。


そのマドゥライにやって来たのだ。
そして、そのずっと見たいと思っていた門塔がいま、目の前に
そびえ立っていた。
長方形の四角錐、というのがあるとする、その頂上の部分を
取り去ったフォルム、そんな形をしている。
そしてその4つの面に極彩色の神々が隈なくびっしり並んでいる。
とても有機的。
1辺が400メートル弱ある敷地は紅白の縦縞に塗られた壁で囲まれており、
その東西南北に出入り口がだいたい1つずつあり、その出入り口が
1つ1つ巨大な門塔なのであった。


夜でも寺院は10時くらいまでは開放されていて、
中に入ると、中庭みたいなのが本殿を取り囲んでいた。
薄明るい照明のもと、巡礼客らしきインド人たちが
思い思いに見学したり、座ってくつろいだりしていた。
夜風が吹いて心地よい。
本殿を含む建物の中も巡拝客たちでいっぱいだった。
うろうろしていると、不意に太鼓と笛の音、
今まで聴いたことのない不思議な音色、調べ。さすが南インド。違う。
その音楽を先頭に、神輿が狭い通路をやってきた。
神輿をあるべき場所に納めると、若者のような老人のような不思議な
僧侶のような人が人々に祝福をしていた。