ナグプル(マハラシュトラ州)の復興仏教拠点

ワルダーに滞在中の大学の研究者の方々に便乗して、隣の市ナグプルに
朝から出掛けてきました。


知人2人の案内で、車に乗って2時間、ナグプル郊外に到着、
そこで見たのは妙海山龍宮寺というお寺。
このお寺はインドでの仏教信仰復興の拠点として、5、6年前に
ある日本人の援助を受けて建立されたそう。
インド仏教復興というのは、インドでは仏教は過去にわずかな教徒を残して
ほとんど衰退したんだけど
カースト制度で苦しむヒンドゥー教の最下層、不可触民の人たちを
仏教に改宗させて救出する目的で、
仏教を再復興させるという動きが今からちょうど50年前に起こりました。
下の写真がその妙海山龍宮寺。龍=ナグ、宮=プル、なので龍宮寺。日蓮宗のお寺。


その龍宮寺の資料室で不思議な仕掛け絵を見ました。
下の写真の、仏陀の左足の向きに注目!
右から見ても
正面から見ても
左から見ても
いつも見ている側に足先が向くようになってるんです。
なんか狐につままれた心持ちがします。



次に見たのが上の写真の、仏教のトレーニング協会。わがラシュトラバーシャの内部の人が
創設に関わっているそう。黄色い袈裟着たお坊さんが見えました。


また車に乗って移動し、インドで仏教復興の活動をしている日本人、
佐々井秀嶺師のお寺へ。でもご本人は残念ながら不在でした。


その後、インド人の天台宗のお坊さんに会い、先生と学生の2人は
細かいメモをとりながら長いインタビューをしてました。
お坊さんは10歳から25歳までを日本で教育を受けながら修行をして過ごしたそうで
衝撃的に日本語がお上手でした。比叡山にいらしたので、みごとな関西訛り。


車に乗り込み、また移動。
次に見たのは、50年前にヒンドゥー教の不可触民の人々がアンベードカル博士
という人物を指導者として仏教に集団改宗をしたという、歴史的な場所。
現在のインドの仏教徒の大半は改宗者だと言われていて、そのじつに8割が
このマハラシュトラ州に集中しているそう。
でも、国勢調査で信仰を「仏教」と書くことで「仏教=元不可触民」という構図から
不利益を被ることを恐れ、そのため隠れブディストもいるらしく、
ブディストの正確な数は実際のところ把握されていません。
集団改宗の場所は、今は記念に新しいお仏舎利が建っています。


途中、先ほど会えなかった佐々井師をあちこちで聞き込んで居場所を追ったんだけど
とてもお忙しい方のようで、結局捕まえることができませんでした。
この方は、仏教再復興に関して文字通り身を削って献身的に活動されているばかりでなく
古代仏教遺跡を新たに発見した人でもあり、どんな方なのかとても興味があったので
会見することができなくてほんとに残念。


時計を見ればすでに16時、お昼もとらずに市内を車で奔走し、やっと休憩。
インドでは超有名フードメーカー、ハルディーラームのファミレスを発見し、
そこでマサラ・ドーサとデザートにアイスクリームをみんなで頂きました。
新しい建物らしく、日本と変わらぬ清潔さ。でも店員の態度は横柄。


帰途、低コストで立てることができる住居の展示会場を見学。
外気の熱を遮断するシステムや、水を天然素材でろ過するろ過器や、
水洗や汲み取りを不要とするトイレなども。
住居は外見も中もかなりきれいで、日本の山間部のコテージみたいな印象。
経済的で環境にやさしい、清潔な建物で、恐らく粗悪な住環境で生活している人たちの
ために考案されたものだと思うんだけど、実用に取り入れられるまでには
まだまだ時間を要するようです。


研究者の方たちと周ったおかげで、普段とはまた違った観点からインドを
眺めることができて、かなり有意義な1日でした。
お2人は現在はマハトマ・ガンジーの研究をされてるんですが、
ガンジーは、不可触民の人々を救出するために、彼らを「ハリジャン(神の子)」
と呼んで保護しようと努めたんだけど、結局「ハリジャン」という“身分”を
与えたことになり身分差別の撤廃に繋がるどころか、差別を容認したという見方もできて、
現在の改宗した仏教徒たちからはそんなによく思われていないという話も。
というわけで、そのガンジーの活動と対照的なのが、「仏教改宗」という動きで
それに関わる拠点や関係する人たちを訪ねるというのが今回のツアーの目的でした、
最後に解説することになっちゃいましたが。


私はその歴史的な背景を認識せずに、インドでヒンドゥー教徒仏教徒たちに囲まれて
生活していたんだなーとしみじみと思いました。
インドの仏教徒たちが、かりそめにも仏教徒の私に対して、やたらとシンパシーを
寄せてくるわけが理解できました。


今回私が受けた印象として大きかったのは、平和的な差別撤廃という同じ方向を
目指している仏教の各宗派や活動家や先導者間に隔たり、確執があるらしい
ということで、このパラドックスこそ最大の問題点ですよねー。
「みんな自分の身にふりかかることを最優先する」という天台宗のインド人僧侶の
言葉、重いです。


私の無知な質問に丁寧に回答、解説してくださった研究者のお2人に感謝です。